熊野の磨崖仏


  国東半島の付け根、豊後高田市に国内で最大・最古と言われる磨崖仏があります。
田染地区の通称鋸山の山麓にある今熊野山 胎蔵寺から、鬼が一夜で 積上げたという大小の自然石を乱積みした 歩きにくい石段を 100段ほど登ると、左手が少し開け壁面に頭部を厚肉彫りし 下に行くほど浅く彫った巨大半身像が二体出迎えてくれます。
 (登り口売店にある無料のスニーカーと杖がありがたい)

  右側の像は、宝冠もなく印も結んでいないが 古い形の大日如来といわれており、頭部背面に光背が刻まれ 頬張った四角い顔に 理知と思想の深みを感じます。
全身高さは 6.8mです。
  左側は不動明王で、ふっくらした頬っぺたと大きな団子鼻そして、ギヨロット飛び出した目玉はいつもの忿怒相ではなく人間味あふれる顔立ちです。 全身高さは 8mです。

  伝説では養老 2年(718)宇佐八幡の化身 仁聞菩薩の作と伝えていますが、古文書などから奈良時代とも鎌倉時代ともいわれており定かでないそうです。

  六郷満山の修行とされる峰入りの荒行が、この魔崖仏を出発点として護摩を焚き満行まで十数日の行に出たと云う。  今でも六郷満山寺院の住職を中心に再現されているそうです。
この地方における 山岳修験の霊場にふさわしい遺構といえるでしよう。

  前日観た臼杵磨崖仏とは違った感じを受けます。  自然の中で 岩と一体となった巨大な仏の表現は国東を いや日本を代表する磨崖仏といわれています。
  こちらは、国宝ではなく 重要文化財に指定されています。

  JR日豊線 宇佐駅から、熊野磨崖仏行きバスや定期観光バスの便があります。
観光バスは、国宝の宇佐神宮と富貴寺や両子寺などの国東半島史跡めぐりです。

  石段にまつわる昔話がおもしろい。
磨崖仏のパンフレットを抜粋してみました。

  権現さまの霊験はあらたかで、里人は お参りするようになってから家は栄え健康でよく肥えていました。
  鬼はこの人間の肉が食べたくて仕方がないが権現さまが恐ろしくて出来なかった。
しかし、どうしても食べたくなり権現さまにお願いしたところ”日が暮れて翌朝鶏が鳴くまでの間に鳥居から神殿まで 100段の石段を作ったら願いを許してやる、出来なかったらお前を食い殺す” といわれた。
  鬼は人間を食べたい一心で石を探しては運び石段を築き始めた。 いくら鬼でも一夜では無理だと思っていた権現さまだが、真夜中でも築く音が聞こえるので 外に出て石段の数を数えてみると既に 99段になっていた。
  そして下の方から最後の石をかついで登ってくる鬼が見えたので、権現さまはあわててコケコッコーと鶏の声を真似て鳴いた。
  これを聞いた鬼は権現さまに食われてしまうと思い、あわてて石を担いでぐ逃げ 1里半も走り 息が切れて苦しいので担いだ石を放ったが、そのまま倒れて息絶えた。
  これを聞いた里人たちは これで安心して生活できる、権現さまのおかげと感謝し岩に刻んだ仏を拝み、豊かな暮らしを続けたとのことです。